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札幌地方裁判所 昭和29年(行)16号 判決 1957年4月19日

原告 福井甚之助

被告 札幌国税局長

訴訟代理人 林倫正 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人らは、「被告が原告に対し、昭和二十九年六月十一日附でした昭和二十六年度分総所得金額九六三、二〇〇円、税額三六三、八一六円、加算税額一五、三五〇円ならびに昭和二十七年度分総所得金額一、四二五、一〇〇円、税額五四五、五五〇円、加算税二六、〇〇〇円とする各審査決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一  原告は、倶知安税務署に対し昭和二十六年および同二十七年度分所得税の総所得金額を、それぞれ三〇一、七三五円および二三三、一〇〇円として確定申告をしたところ、同署は昭和二十八年三月三十一日右金額をそれぞれ一、七九八、五二二円および二、五六三、九〇〇円に更正する旨の決定をしたので、原告は同年五月七日同署長に対し再調査の請求をしたが棄却されたので、原告はさらに被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和二十九年六月十一日付で請求の趣旨記載のような審査決定をした。

二  しかしながら、右各審査決定は、原告の現実所得と合致しない違法なものである。昭和二十六年度および昭和二十七年度における原告の所得は、次のとおりである。

1  昭和二十六年度

(一)  収入 原告は、次に掲げるとおり合計七四一、七三五円の収入を得た。

(1)  昭和二十六年五月齎藤理八から助宗の子一、〇〇〇貫を九〇〇、〇〇〇円で買い受け、同年八月同人に九八〇、〇〇〇円で売り渡して得た八〇、〇〇〇円の収益。

(2)  昭和二十六年十月成田養助から流網一八〇把を四〇〇、〇〇〇円で買い受け、同年十二月同人に四四〇、〇〇〇円で売り渡して得た四〇、〇〇〇円の収益。

(3)  同年一月宮下喜一郎から流網一八〇把を四〇〇、〇〇〇円で買い受け、同年十一月同人に四四〇、〇〇〇円で売り渡して得た四〇、〇〇〇円の収益。

(4)  同年五月田村某から干数の子一、二〇〇貫を一、〇八三、〇〇〇円で買い受け、一、三四〇、〇〇〇円で他に売り渡したが、経費一一七、〇〇〇円を差し引いて得た一四〇、〇〇〇円の収益。

(5)  藤巻三郎に対する傭船料六〇、〇〇〇円(三ヶ月分)

(6)  昭和二十六年五月真野英佐久から生鰊三、五〇〇貫を五二五、〇〇〇円で買い受けたが、同年十二月同人に六七五、〇〇〇円で売り渡し、五七五、〇〇〇円を同年度中に受け取つて得た差引五〇、〇〇〇円の収益。

(7)  同年五月林貫一から干数の子七〇〇貫を五六〇、〇〇〇円で買い受けたが、同年十一月同人に七五〇、〇〇〇円で売り渡し、同年中に五九〇、〇〇〇円受け取つて得た差引三〇、〇〇〇円の収益。

(8)  農業所得三〇一、七三五円。

(二)  損失 原告は、次に掲げるとおり合計七一〇、八六三円の損失を被つた。

(1)  大津亀寿、ほか二名に昭和二十三年八月中に貸し付けた合計三五〇、〇〇〇円が、同人らの倒産のため回収不能となつて被つた同額の損失。

(2)  前記(一)の各売買に要した経費一二八、九六三円。

(3)  昭和二十六年七月若林某から生身欠二、二五〇貫を六三〇、〇〇〇円で買い受け、五一〇、〇〇〇円で他に売り渡したので、その冷凍倉敷料一一一、九〇〇円を加算して被つた二三一、九〇〇円の損失。

(三)  したがつて、同年度における原告の総所得は、(一)から(二)を差し引いた残り三〇、八七二円にすぎない。

2  昭和二十七年度

(一)  収入 原告は、次に掲げるとおり合計一、三五六、一〇〇円の収入を得た。

(1)  昭和二十七年八月成田養助から流網二〇〇把八〇〇、〇〇〇円を、同年三月ミンタイ一六〇個四〇〇、〇〇〇円をそれぞれ買い受け、その後これを同人にそれぞれ八四〇、〇〇〇円および四五〇、〇〇〇円で売り渡して得た差し引き合計九〇、〇〇〇円の収益。

(2)  昭和二十七年三月宮下喜一郎から同人所有の初宮丸を買い受け、その後同年十二月まで同人から傭船料として得た一八〇、〇〇〇円の収益および同年四月同人から塩数の子、二、四〇〇貫を一、〇〇〇、〇〇〇円で買い受け、同年六月同人にこれを一、一〇〇、〇〇〇円で売り渡して得た一〇〇、〇〇〇円の収益。

(3)  昭和二十七年四月から六月までの間に羽生、宮下両名から干数の子一、八〇〇貫を一、八一五、〇〇〇円で買い受け、諸経費二六〇、〇〇〇円をかけて他に二、三六〇、〇〇〇円で売り渡した結果得た二八五、〇〇〇円の収益。

(4)  藤巻三郎に対する傭船料一〇〇、〇〇〇円(五ヶ月分)

(5)  真野英佐久に対する一〇〇、〇〇〇円(前年度における前記1の(一)の(6) の繰越金)

(6)  林貫一に対する一六〇、〇〇〇円(前年度における前記1の(一)の(7) の繰越金)

(7)  岩崎勝俊に対する傭船料六三、〇〇〇円(三ヶ月分)

(8)  山口要に対する納屋場賃貸料四五、〇〇〇円。

(9)  農業所得二三三、一〇〇円。

(二)  損失 原告は、次に掲げるとおり合計一、三九七、二〇三円の損失を被つた。

(1)  齎藤理八に対する前年度の繰越金六〇〇、〇〇〇円のうち三〇〇、〇〇〇円は同人の倒産により回収不能となつて被つた同額の損失。

(2)  前記(一)の各売買に要した経費二八九、九六三円

(3)  岩崎勝俊に対する刑事事件のため大明丸を領置されたために被つた三二〇、〇〇〇円の損失。

(4)  前年度若林某から五一〇、〇〇〇円で買い受けたロープを昭和二十七年十二月他に二七〇、〇〇〇円で売り渡して被つた二四〇、〇〇〇円の損失。

(5)  昭和二十六年九月佐藤富蔵から煮干一、八二〇貫を経費とも四四九、〇〇〇円で買い受け、同二十七年六月他に一、二四八貫を二一二、〇〇〇円に値下げして売り渡して被つた一二一、四〇〇円の損失およびさらに残り五七二貫を俵藤富藤に一二五、八四〇円で売り渡したが、同人の倒産のため回収不能となつて被つた同額の損失。

(三)  したがつて、同年度の原告の総所得は、右(一)の収入から(二)の損失を差し引いた残り四一、一〇三円の赤字となる。

三  よつて、原告の右各年度における現実の所得と合致しない被告の審査決定の取消を求める。

四  被告の主張事実に対し、次のとおり述べた。

二の事実はすべて認める。

三の事実につき、昭和二十六・七年度の原告の生活費、公租公課および原告本人名義の預貯金が被告主張のとおりであること、昭和二十七年中に原告が被告主張のような株券を買い受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。右両年度の出資金中、岩内信用金庫および前田村農業協同組合(以下前田村農協という。)に対する分は、いずれも原告の子福井精治のものである。

四の事実につき、昭和二十六年度の農業所得、数の子売買による所得(ただし売上金額のみ)、生身欠売買による損失、支払利子その他、昭和二十七年度の農業所得、配当所得(ただし拓銀の分を除く。)数の子売買による所得(ただし仕入金額のみ)、貸倒金、支払利子その他がそれぞれ被告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告指定代理人らは、主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一  原告の昭和二十六・七年度の事業所得につき、原告主張のような確定申告、更正決定、再調査の請求、同請求の棄却、審査の請求および審査決定のあつたことは認めるが、その余の事実は争う。

二  所得税法第九条第一項第四号によれば、事業所得額の認定はその年度中の総収入金額から必要経費を控除した金額によるべきものと規定されているので、納税義務者が正確な帳簿等を備え付けておれば、これにより収支の計算を行い正確に所得金額および所得税額を算定し課税することができるのである。しかるに、原告は帳簿その他の資料を持つていなかつたので、被告はやむなく同法第四十五条第三項により間接調査の方法によりこれを推計したのである。

三  しかして、右間接調査方法のうち資産増減法によると、原告の事業所得は、次のとおりである。

1  昭和二十六年度

(一)  原告の資産の増加および生活費、公租公課は、次に掲げるとおり合計三、六〇七、六一四円である。

(1)  岩内信用金庫に対する八〇〇円および前田村農協に対する七、〇〇〇円合計七、八〇〇円の出資の増加。

(2)  齎藤理八に対する七〇〇、〇〇〇円、成田養助に対する一、一〇〇、〇〇〇円、宮下喜一郎に対する四〇〇、〇〇〇円、真野英佐久に対する五〇〇、〇〇〇円、林貫一に対する三〇〇、〇〇〇円および佐藤富蔵に対する四〇〇、〇〇〇円合計三、四〇〇、〇〇〇円の貸付の増加。

(3)  農林省農林経済局統計調査部の調査によれば、昭和二十六年における道内農家の平均生計費は一人当り一年四〇、九二六円となつているので、これによつて算出した原告一家四名の生活費合計一六三・七〇四円。

(4)  村民税九、六三〇円および固定資産税二六、四八〇円合計三六、一一〇円の公租公課。

(二)  原告の資産の減少および負債の増加は、次に掲げるとおり合計一、二一六、四七六円である。

(1)  本人および家族の預貯金につき、前田村農協七三六、六一八円の減、岩内信用金庫二九九、七三九円の増、北海道拓殖銀行岩内支店(以下拓銀岩内支店という。)一七九、五九七円の減、差引六一六、四七六円の減。

(2)  岩内信用金庫に対する手形借入三〇〇、〇〇〇円および拓銀岩内支店に対する借入金三〇〇、〇〇〇円合計六〇〇、〇〇〇円の借入金の増。

(三)  したがつて、(一)から(二)を差し引くと、二、三九一、一三八円の資産増加となるので、原告は同年度中に同額の所得があつたといわなければならない。

2  昭和二十七年度

(一)  原告の資産の増加および生活費、公租公課は、次に掲げるとおり合計二、八〇一、九〇二円である。

(1)  前田村農協に二、〇〇〇円出資し、さらに日本セメント株式会社の株券二〇、〇〇〇円および富士製鉄株式会社の一〇、〇〇〇円を取得した結果得た合計一二二、〇〇〇円の出資金の増。

(2)  原告および家族の預貯金につき、前田村農協に九二二、九一三円、岩内信用金庫に七〇〇、一六五円、拓銀岩内支店に二一七、四六八円合計一、八四〇、五四六円の預貯金の増。

(3)  昭和二十七年度における道内農家の平均生計費は一人当り一年四七、一八四円となつているので、これにより算出した原告一家四名の生計費合計一八八、七三六円。

(4)  村民税九、七六〇円、固定資産税一七、七二〇円および所得税二三、一四〇円合計五〇、六二〇円の公租公課。

(5)  昭和二十六年度の前記(二)の(2) の借入金六〇〇、〇〇〇円の返済。

(二)  原告の資産の減少は、次のとおり合計三七四、五六〇円である。

齎藤理八に対する一〇〇、〇〇〇円、藤巻三郎に対する二五〇、〇〇〇円、成田養助に対する三〇〇、〇〇〇円、真野英佐久に対する五〇〇、〇〇〇円、佐藤富蔵に対する二七四、五六〇円の各減と、一方宮下喜一郎に対する二五〇、〇〇〇円、山口要に対する三〇〇、〇〇〇円、内山チエに対する二〇〇、〇〇〇円、若林石雄に対する三〇〇、〇〇〇円の各増との差引三七四、五六〇円の貸付金減。

(三) (一) から(二)を差し引くと、二、四二七、三四二円の資産増となるので、原告は同年度中に同額の所得があつた6のといわなければならない。

四  すると、右各所得金額の範囲内でした被告の審査決定は、いずれも適法である。

五  かりに、右資産増減法による推計が認められないとしても、収入・支出の状況から原告の所得を推計すると、次のとおりである。

1  昭和二十六年度

原告の所得は、次に掲げるとおり差引合計一、六一〇、九一九円である。

(一)  貸金利子所得

(1)  齎藤理八の分 三三六、〇〇〇円(元金九〇〇、〇〇〇円利息年六分(以下単に何分と略記する。)の二ヶ月分八四、〇〇〇円、同四〇〇、〇〇〇円六分三ヶ月分九八、〇〇〇円、同七〇〇、〇〇〇六分二ヶ月分八四、〇〇〇〇円、同七〇〇、〇〇〇円五分同七〇、〇〇〇円)

(2)  成田養助の分 一八六、〇〇〇円(元金三〇〇、〇〇〇円六分二ヶ月分三六、〇〇〇円、同八〇〇、〇〇〇円五分三ヶ月分一二〇、〇〇〇円、同三〇〇、〇〇〇円同二ヶ月分三〇、〇〇〇円)

(3)  宮下喜一郎の分 四〇、〇〇〇円(元金四〇〇、〇〇〇円五分二ヶ月分)

(4)  藤巻三郎の分 一五〇、〇〇〇円(元金三五〇、〇〇〇円五分一年分)

(5)  真野英佐久の分 一〇五、〇〇〇円(元金五〇〇、〇〇〇円七分三ヶ月分)

(6)  林貫一の分 九〇、〇〇〇円(元金三〇〇、〇〇〇円五分六ヶ月分)

(7)  佐藤富蔵の分 六〇、〇〇〇円(元金四〇〇、〇〇〇円五分三ヶ月分)

(8)  猪股次郎の分 一五七、七五〇円(同人から昭和二十六年度所得税再調査請求書の計算内訳書に原告に対する支払利子として計上されている。)

(9)  増田益雄の分 一〇、〇〇〇円(同人の保証人岩井鉄次郎からの受入利子)

(二)  農業所得 三〇一、七五〇円

(三)  配当所得 一、〇〇〇円(拓銀の配当)

(四)  利子所得 三五、一三九円(拓銀八、八八五円、岩内信用金庫五二八円、前田農協二五、九〇六円)

(五)  数の子売買による所得 三九〇、〇〇〇円(売上一、三四〇、〇〇〇円から仕入および経費九五〇、〇〇〇円を差し引いたもの)

(六)  生身欠売買による損失 二二一、九〇〇円(売上五一〇、〇〇〇円から仕入および経費七四一、九〇〇円を差し引いたもの)

(七)  支払利子その他 三〇、〇〇〇円(拓銀一四、一二〇円、岩内信用金庫四、六七〇円、前田農協四〇円、計一八、八三〇円、その他一一、一七〇円)

2  昭和二十七年度

原告の所得は次に掲げるとおり差引合計二、六八〇、三七七円である。

(一)  貸金利子所得

(1)  齎藤理八の分 三一五、四〇〇円(昭和二十六年の貸入金に対する利子三ヶ月分七五、四〇〇円、元金六〇〇、〇〇〇円五分六ヶ月分二四〇、〇〇〇円)

(2)  成田養助の分 四八五、〇〇〇(元金一、一〇〇、〇〇〇円五分一ヶ月分五五、〇〇〇円、同八〇〇、〇〇〇円同二ヶ月分八〇、〇〇〇円、同六〇〇、〇〇〇円同一ヶ月分三〇、〇〇〇円、同八〇〇、〇〇〇円同八ヶ月分三二〇、〇〇〇)

(3)  宮下喜一郎の分 六〇〇、〇〇〇円(元金四〇〇、〇〇〇円五分三ヶ月分五五、〇〇〇円、同七〇〇、〇〇〇円同二ヶ月分七〇、〇〇〇円、同一、〇〇〇、〇〇〇円同四ヶ月分二三五、〇〇〇円、同一、一〇〇、〇〇〇円同二ヶ月分二〇、〇〇〇円、同九〇〇、〇〇〇円同二ヶ月分九〇、〇〇〇円、同一五〇、〇〇〇円同一ヶ月分七、五〇〇円、同六五〇、〇〇〇円同二ヶ月分三二、五〇〇円)

(4)  藤巻三郎の分 五〇、〇〇〇円(元金二五〇、〇〇〇円五分四ヶ月分)

(5)  真野英佐久の分 四五、〇〇〇円(元金五〇〇、〇〇〇円七分二ヶ月分)

(6)  林貫一の分 一六〇、〇〇〇円(元金三〇〇、〇〇〇円五分二ヶ月分三〇、〇〇〇円、同一〇〇、〇〇〇円同二ヶ月分一〇、〇〇〇円、同三〇〇、〇〇〇円同八ヶ月分一二〇、〇〇〇円)

(7)  岩崎勝俊の分 七三、五〇〇円(元金三〇〇、〇〇〇円七分三、五ヶ月分)

(8)  山口要の分 四五、〇〇〇円(元金三〇〇、〇〇〇円五分三ヶ月分)

(9)  内山チエの分 六〇、〇〇〇円(元金二〇〇、〇〇〇円六分五ヶ月分)

(10) 若林石雄の分 四八、〇〇〇円(元金三〇〇、〇〇〇円八分二ヶ月分)

(11) 増田益雄の分 一〇、〇〇〇円(同人の保証人岩井鉄次郎よりの受入利子)

(二)  農業所得 二三三、一〇〇円

(三)  配当所得 二二、二八五円(拓銀一、二〇〇円、日本セメント株式会社九、七五〇円、富士製鉄株式会社一一、三二五円)

(四)  利子所得 四三、〇九二円(拓銀一〇、一八〇円、岩内信用金庫一三、九四二円、前田農協一八、九七〇円)

(五)  数の子売買による所得 八四〇、〇〇〇円(売上三、一五五、〇〇〇円から仕入二、三一五、〇〇〇円を差し引いたもの)

(六)  貸倒金 三〇〇、〇〇〇円(岩崎勝俊に対する貸付金の貸倒による損失)

(七)  支払利子その他 五〇、〇〇〇円(拓銀七、九六〇円、岩内信用金庫四、九八九円、計一二、九四九円、その他三七、〇六一円)

六  したがつて、右金額の範囲内でした被告の各審査決定は何ら違法でない。

証拠<省略>

⑩理由

一  原告が昭和二十六・七年度の事業所得税につき、倶知安税務署長に対しその主張のような確定申告をしたところ、同署長が右確定申告につき原告主張のような更正決定および再調査棄却の決定をしたので、原告は被告に対し審査の請求をしたところ、被告が昭和二十九年六月十一日付で原告主張のような審査決定をしたこと、被告が原告主張のような調査方法により原告の総所得金額を推計したことは、当事者間に争いがない。

二  原告は、被告の推計した総所得の金額を争うのであるから、まず資産増減法により原告の昭和二十六・七年度の総所得金額を計算してみる。

1  昭和二十六年度

(一)資産増

(1)  出資金の増加

成立に争いのない乙第一号証の一、同第十四号証の二、同第十五号証、証人餅田勲の証言によれば、同年度における原告の出資金は、岩内信用金庫に対し八〇〇円、前田村農協に対し七、〇〇〇円計七、八〇〇円の増加となつていることが認められる。右認定に反する甲第九号証、証人福井精治の証言および原告本人の尋問の結果はたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2)  貸付金の増加

成立に争のない乙第四号証の一・二によれば、原告の齎藤理八に対する貸付金は七〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第四号証の二、証人齎藤理八の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第六号証の一・二、証人成田養助の証言の一部によれば、原告の成田養助に対する貸付金は一、一〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第一号証の二、同証人の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第七号証の一・二によれば、原告の宮下喜一郎に対する貸付金は四〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第二号証、証人宮下喜一郎の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第八号証によれば、原告の真野英佐久に対する貸付金は五〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する証人真野英佐久の証言は信用することができない。

成立に争いのない乙第九号証によれば、原告の林貫一に対する貸付金は、三〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

成立に争いのない乙第十一号証によれば、原告の佐藤富蔵に対する貸付金は、四〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第六号証の一、証人佐藤富蔵の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

以上原告の貸付金は、合計三、四〇〇、〇〇〇円の増加となる。

(3)  ところで、同年度の原告の生活費が一六三、七〇四円、公租公課が三六、一一〇円であることは当事者間に争いがないので、これに右(1) (2) の各金額を加えると、合計三、六〇七、六一四円となり、これが同年度における原告の資産増である。

(二)  資産減

(1)  預貯金の減少

前田村農協に対する原告名義の預貯金が差引八三、三八二円の増加であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第三号証の一・二・五ないし七、証人餅田勲の証言によれば、福井スミほか六名名義の定期予金合計八二〇、〇〇〇円の減少は原告の引き出したものであることが認められ、右認定に反する証人福井精治の証言は信用することができない。したがつて、同農協に対する原告の預貯金は合計七三六、六一八円の減少となる。

岩内信用金庫に対する原告名義の預貯金が九九、七四〇円の増であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、福井スミ、同多美子名義の定期預金二〇〇、〇〇〇円の増も原告の所得に属するものであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。したがつて同金庫に対する原告の預貯金は合計二九九、七三九円の増加となる。

拓銀岩内支店に対する原告名義の預貯金が四四九、五九七円の減であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二号証の二、同第二十二号証の二によれば、福井賢二ほか八名の定期預金合計二七〇、〇〇〇円の増も原告の所得に属するものであることが認められ、右認定に反する証人福井精治の証言は信用することができない。したがつて、同支店に対する原告の預貯金は合計一七九、五九七円の減少である。

以上の合計は六一六、四七六円の減となる。

(2)  借入金

成立に争いのない乙第一号証の一、同第十三号証によれば、原告は岩内信用金庫および拓銀岩内支店に対し各三〇〇、〇〇〇円合計六〇〇、〇〇〇円の借入金のあつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右(1) (2) の合計は、一、二一六、四七六円となる。すると、昭和二十六年度の原告の資産増は三、六〇七、六一四円、資産減は一、二一六、四七六円、差引所得は二、三九一、一三八円となる。

2  昭和二十七年度

(一)  資産増

(1)  出資金の増加

原告が日本セメント株式会社の株券二〇、〇〇〇円、富士製鉄株式会社の株券一〇〇、〇〇〇田を取得したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第十四号証の二、同第十五号証、証人餅田勲の証言によれば、原告の前田村農協に対する出資金は二、〇〇〇円の増であることが認められ、右認定に反する甲第九号証、証人福井精治の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。したがつて、同年度の出資金は合計一二二、〇〇〇円の増になる。

(2)  預貯金の増加

前田村農協に対する原告名義の預貯金については当事者間に争いがなく、これに成立に争いのない乙第三号証の一・二・四・七・八、証人餅田勲の証言を併せ考えると、原告の同農協に対する預貯金は結局合計九二二、九一三円の増であることが認められ、右認定に反する証人福井精治の証言は信用することができない。

岩内信用金庫に対する原告名義の預貯金については当事者間に争いがなく、これに成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、同第二十三号証を併せ考えると同金庫に対する原告の預貯金は結局合計七〇〇、一六五円の増であることが認められ、右認定に反する証人福井精治の証言は信用することができない。

拓銀岩内支店に対する原告名義の預貯金については当事者間に争いがなく、これに成立に争いのない乙第二号証の二、同第二十二号証の二を併せ考えると、同支店に対する原告の預貯金は結局合計二一七、四六八円の増であることが認められ、右認定に反する証人福井精治の証言は信用することができない。

すると、同年度の原告の預貯金は合計一、八四〇、五四六円の増となる。

(3)  借入金の返済

成立に争いのない乙第一号証の一、同第十三号証によれば、原告は岩内信用金庫および拓銀岩内支店に対する各三〇〇、〇〇〇円合計六〇〇、〇〇〇円の借入金を同年度中に返済していることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(4)  ところで同年度の原告の生活費が一八八、七三六円、公租公課が五〇、六二〇円であることは当事者間に争いがないので、これに右(1) (2) (3) の金額を加えると、合計二、八〇一、九〇二円となり、これが同年度における原告の資産増である。

(二)  貸付金の減少

(イ) 成立に争いのない乙第四号証の一ないし三によれば原告の齎藤理八に対する貸付金は一〇〇、〇〇〇円の減となつていることが認められ、右認定に反する証人齎藤理八の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第五号証、証人藤巻三郎の証言の一部によれば、原告の藤巻三郎に対する貸付金は二五〇、〇〇〇円の減であつたことが認められ、右認定に反する同証人の証言は信用することができない。

成立に争いのない乙第六号証の一・二、証人成田養助の証言の一部によれば、原告の成田養助に対する貸付金は三〇〇、〇〇〇円の減となつていることが認められ、右認定に反する甲第一号証の一・二、右証人の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第八号証によれば、原告の真野英佐久に対する貸付金は五〇〇、〇〇〇円の減となつていることが認められ、右認定に反する証人真野英佐久の証言は信用することができない。

成立に争いのない乙第十一号証によれば、原告の佐藤富蔵に対する貸付金は二七四、五六〇円の減となつていることが認められ、右認定に反する甲第六号証の二、証人佐藤富蔵の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

(ロ) 成立に争いのない乙第七号証の一・二によれば、原告の宮下喜一郎に対する貸付金は二五〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第二号証、証人宮下喜一郎の証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第十号証の二によれば、原告の山口要に対する貸付金は三〇〇、〇〇〇円の増となつていことが認められ、右認定に反する証人山口要の証言は信用することができない。

成立に争いのない乙第十二号証によれば、原告の内山チエに対する貸付金は二〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第七および第八号証、証人内山チエの証言および原告本人尋問の結果は信用することができない。

成立に争いのない乙第十六号証によれば、原告の若林石雄に対する貸付金は三〇〇、〇〇〇円の増となつていることが認められ、右認定に反する甲第五号証、同第十号証、原告本人尋問の結果は信用することができない。

右(イ)(ロ)を差し引き計算すると、原告の貸付金は三七四、五六〇円の減となる。

したがつて、昭和二十七年度における原告の資産増は二、八〇一、九〇二円、資産減は三七四、五六〇円、差引所得は二、四二七、三四二円となる。

三  そうだとすれば、被告が昭和二十六年度の総所得額を前記二の1の二、三九一、一三八円の範囲内で九六三、〇〇〇円、昭和二十七年度の総所得額を同じく二の2の二、四二七、三四二円の範囲内で一、四二五、一〇〇円とそれぞれ推計してした被告の審査決定は適法であるから、これが取消を求める原告の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田良正 四ッ谷厳 徳松厳)

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